ニュースメモ: ISP による通信フィルタリングと「通信の秘密」について
少し前の話だが,「ISP による winny トラフィックの遮断」は 「通信の秘密」を侵害している,と総務省が判断したというニュースが流れた. やっぱりなぁ,という感想.
ぷららのWinny規制、総務省がストップ--「通信の秘密」侵害の可能性 (CNET Japan)
総務省はこれについて「利用者の同意を得ることなく通信の停止を行うのは電気通信事業法で定めた通信の秘密の侵害になる」とコメントしている。「(ファイル交換ソフトの)トラフィック制限に関しては通信事業者として正当な業務と認められるが、完全な遮断は正当な業務と認められない」という。
ぷららの「Winny完全規制」に待った - 通信の秘密の侵害の可能性 (MYCOMジャーナル)
電気通信事業者であるISPはネットワークを安定的に提供する義務を負っており、基本的に通信を遮断することはできない。今回ぷららは、「Winnyの通信のクセ、トラフィックのパターンを見て、通信の中身は見ないで(Winny通信だと)判断して遮断する」という手法でWinny通信のみを遮断する方法を検討していたが、総務省は「Winny上の問題のない通信も遮断しかねない」「誤検知の可能性がある」という2点から、Winnyの完全規制は「認められない」(消費者行政課)という判断だ。
通信の秘密の侵害に当たらない場合としては、電気通信事業者には「正当業務行為」「緊急避難」といった手段も残されているが、・・(中略)・・たとえばWinny通信で負荷が高まり、ネットワークがダウンする危険性がある、として「流量を制限する」のであれば「正当業務行為に当たる」(同)とされる。
ところが、今回ぷららは「被害者保護」という目的で「Winny完全規制」に乗り出したため、総務省としては「無理がある」として方針に反対の意向を示した。
ISP や電話会社みたいな 電気通信事業者 は, 電気通信事業法という法律で 通信の秘密 を侵害 (盗み見,漏洩) することを 固く禁じられている. 通信の秘密というのは,通信の内容自体はもちろんのこと, 通信があったという情報 ですらも保障対象としている.
これがなんで Winny トラフィックの遮断と関係してくるかというと, トラフィックを遮断する際に「トラフィックの種類」を ISP が勝手に調べちゃうわけで, これが通信の秘密の侵害になるんだと思う. Winny に限った話ではなく,ISP がトラフィックの種類を特定して 遮断するのは基本的に許されない,ということだ.
ただ,そうなると ISP がスパム撲滅を名目に行っている Outbound Port25 Blocking や Inbound Port25 Blocking が 気になってくる. これらは「通信の秘密の侵害」ではないのだろうか?
そんなことを考えていたら,こんな記事があった.
送信ドメインの Inbound Check (Inbound Port25 Blocking で使われる技術) に関しての言及だが, まとめると次のようなことが書かれている.
- 送信ドメインの Inbound Check は「通信の秘密の侵害」である
- ただし,送信ドメインを偽った (つまり,スパムっぽい) メールは ISP の帯域を圧迫する恐れが高く, 送信ドメインを検査するのは帯域圧迫への対抗措置といえる. これは ISP の 正当な業務行為 であり,この場合は 違法性阻却事由あり として 「通信の秘密の侵害」は不問となる.
多分,Outbound Port25 Blocking も同じような感じで OK なんだろう. Winny に関する記事 (ぷららの「Winny完全規制」に待った - 通信の秘密の侵害の可能性 (MYCOMジャーナル)) でも,
Winny通信で負荷が高まり、ネットワークがダウンする危険性がある、として「流量を制限する」のであれば「正当業務行為に当たる」(同)とされる。
とあるし, 要は 帯域確保のための通信制限 ならば 違法性阻却事由あり として 通信の秘密の侵害は許されるらしい.